前橋家庭裁判所桐生支部 昭和41年(少ハ)2号 決定 1966年10月17日
少年 S・D(昭二二・一・一八生)
主文
少年を昭和四二年一〇月一六日まで中等少年院に戻して収容する。
理由
本件申請の理由は、本人は関東地方更生保護委員会第二部の決定により昭和四〇年一〇月一四日八街少年院から仮退院し桐生市○○○町○丁目○○番地の母M子のもとに帰住し昭和四二年一月一七日を保護観察期間終了日として前橋保護観察所の保護観察下にあるが、前橋保護観察所としては保護者母M子が精薄で保護能力に欠ける点に鑑み主として祖母T子と密接な連絡接触を保ち本人の指導監督をし速かに適当な職業に就かせ勤労の習慣をつけるよう補導援護と生活指導をなし或は桐生市内に相当数の不良友人が居るので本人の自覚を促し、雇主と協力し出勤時退勤時の行動に配意し前途の希望を持たせるよう常に接触を保ち温く激励する等を主たる方針として保護観察を実施して来た。
しかるに本人はその保護観察実施期間中において
一、昭和四〇年一〇月二一日から担当者の斡旋により自動車の部品を製造する○越鉄工所(桐生市○○○町所在)に就職し、担当者から再三激励を受けたが欠勤し易く、同年一一月五日工具のバイト、ドリル等を折つたことで工場長に注意され立腹して退職し
二、その後は積極的に働く意欲なく、家庭で徒食し、大声を発したり物を投げたり或は暴れたり等して家人を困らせ
三、同年一一月一九日担当者から○野兄弟運送(桐生市○○町所在)に運転助手として就職し、担当者に同伴されたが雇主が嫌だと就職せず
四、同年一一月二三日無断家出し、二、三日後帰宅したが、再び徒食の生活をつづけ、或は家庭で粗暴な行為をなし
五、同年一一月八日頃から○沢電気工事店(桐生市××町所在)に配線工として就職し、昭和四一年一月一〇日頃過労とか、給料が安いとかの理由で担当者の熱心な説得にもかかわらず退職し、再び徒食の生活をはじめ
六、同年二月三日から○木産業(桐生市○町所在)に自動車運転助手として就職したが、三月初頃自動車教習所に通うのに会社で誰も保証人になつてくれないと立腹して退職、その後二、三日間大工手伝をして働いた以後は徒食し、家庭で粗暴な行為をつづけ
七、昭和四〇年一二月から昭和四一年四月に至る間パチンコ屋で知合つた氏名不詳の者から興奮薬ベタス(注射液)を買い受け、正当の理由もなく興味本位に一〇回位使用し
八、昭和四一年四月初頃桐生市で露天商仲間に入り綿飴売りとして二、三日働き飲食代をかせぎ四月二〇日頃祖母に旅に出ると担当者に無断で家出し、テキヤ○原某(高崎市居住、三五歳位)と共に長岡市方面に働きに行き、五月二〇日頃帰宅し、約五日間家で徒食し、家人に乱暴しては金銭を強要し、パチンコ遊びに耽り
九、同年五月二五日再び家出上京し、川崎方面の飯場に入り、土工生活をしたが毎日平均ビール五本位飲むなど放縦な生活をつづけ
一〇、同年七月初頃横浜市鶴見の花月園競輪場でダフ屋から切符を求め、警察官に逮捕され、神奈川県条例違反事件により横浜家庭裁判所の審判に付され
一一、同裁判所の決定により七月末頃船橋技術工員訓練所に補導委託されたが八月一〇日頃同所から逃走し、再び川崎東京方面で土工生活を為し、九月二日頃帰宅、その後は競艇、競輪、パチンコ遊び等をなし放縦な生活をくりかえしていた。
ことが明らかである。
叙上の行為は、本人が仮退院に際し誓約した犯罪者予防更生法第三四条第二項所定の遵守事項
一、一定の住居に居住し、正業に従事すること
二、善行を保持すること
三、犯罪性のある者又は素行不良の者と交際しないこと、
四、住居を転じ又は長期の旅行をするときは、あらかじめ、保護観察を行う者の許可を求めること
ならびに同法第三一条第三項により関東地方更生保護委員会第二部の定めた遵守事項の
3 保護観察官や保護司の指示をよく守り、入院前の生活態度を改め、定職についてまじめに働くこと
のそれぞれに違反しているものである。
以上の保護観察経過ならびに前歴を綜合検討するに、本人は先に印旛少年院からの仮退院中、行状不良で虞犯傾向が強く、昭和三九年一〇月一六日前橋家庭裁判所桐生支部において「中等少年院に戻して収容する」決定を受け、八街少年院に収容され、矯正教育を受けた上再び仮退院を許されたにかかわらず、仮退院当初から勤労意欲に乏しく、自己中心的で持続性、自主性に欠け、即行的、衝動的行動に走る性癖は矯正されておらず、担当者の再三に亘る熱心な補導援護、指導監督に従わず、ほしいままに保護観察を離脱し、放縦、無軌道な生活をくりかえし、あまつさえ少年法第二五条第二項第三号の措置も効果なく、しかも家庭においては母、兄が精薄者で祖母も本人の粗暴な態度におそれおののいている状態では監護を希むべくもなく、本人の行状は先に少年院に戻し収容されたときと同様の状態に戻つており、保護観察の限界に達していると認めざるを得ないのみならず、このまま放置すれば将来重大な非行を犯す虞が濃厚である。
本人は現在一九歳八月余で成人の域に近いが、本人にふさわしい矯正施設において相当長期間に亘り教育を施し、勤労意欲を喚起し、その自覚を促すと共に収容中に受入環境を適正に調整すれば、将来の更生は可能と認められる。
よつて、この際本人が未だ犯罪に陥らぬ前に、速やかに少年院に戻して収容することが本人のため最も適当な措置と認め、この申請に及ぶというにある。
よつて按ずるに、本件記録中前橋保護観察所長田中典より関東地方更生保護委員会宛の保護観察の経過状況報告書、保護観察官の少年に対する質問調書並びに当裁判所の少年に対する審判調書中少年の供述を綜合すれば、保護観察実施期間中の少年の非行歴「一一」記載の九月一二日頃帰宅したが、その後「競輪遊びをした」点を除き、本件の申請理由とする事実の全部を認めることができる。
してみれば、右の如き事実関係と前橋鑑別所の少年に対する鑑別結果通知書並びに少年の資質及び現在の家庭環境に照して少年が将来再び非行を重ねる虞れが多分に存在し、在宅による保護観察を継続しても何等その実績を期待することはできない実情にあるので、仮退院中の少年をこの決定の日から昭和四二年一〇月一六日まで中等少年院に戻して収容するのを相当とする。
よつて本件申請を理由ありとして認容し、犯罪者予防更生法第四三条第一項により主文の通り決定する。
(裁判官 西山光盛)